Home Sitemap English
header
HOME

ナイトライド・ストーリー

Chapter 17

私が初代事務局長を務めた社団法人徳島ニュービジネス協議会が今年十周年を迎えた。継続は力なりという言葉通り、事務局を支えてこられた皆さんに敬意を表したい。

以前記述した通り、この経済団体は、私が10年前徳島を訪れ、右も左もわからない中、設立許可申請を行って設立したので感慨深い。また、当時、講演にお呼びした、グッドウイルの折口社長、楽天の三木谷社長、サイボーズの高須賀社長、イーディコントライブの川合社長、モックの山田社長等、多くの方々が上場を果たし、活躍しておられる。正直、当時は、本当に上場できるのかと思ったが、まもなく見事に上場され、日本の激動のベンチャー時代を目の当たりにすることができた。


私自身は、ベンチャー企業の支援に限界を感じ、自らも上場企業を生み出すため、徳島大学との産学連携で当社を設立した。従って、当社の経営に専念して、この会社を成功させることが徳島、更に日本のベンチャー企業の最大の支援と信じている。日本には、世界で通用するベンチャー企業がほとんどない。それは、上場したベンチャー企業の活動拠点が国内に限られていることを見ればよくわかる。米国は、マイクロソフト以降も、ネットスケープ、AOL、ヤフー、イーベイ、グーグル、スカイプのように次々と、世界的ベンチャー企業が誕生している。これは言語、文化の問題もあるが、技術力の差が大きいように思う。実際に、日本企業が、海外で成功した例は、ソニー、ホンダといった技術力のある製造業に限られる。

当社は、幸い紫外線LEDというユニークな製品を扱っている関係もあって、海外向けの売上は全体の約3割を占める。また、特許に関しても韓国企業へライセンス供与している上、昨年は、イギリスのLED技術視察団等が訪れるなど、海外との接点が多い。製造業において、今でも日本が世界の最先端であることは疑いがない。特にアジアの企業は、日本の技術に憧れを抱いている。

私は、日本にベンチャー企業が育つ環境は10年前と比較すると飛躍的に改善されたと思う。当時と比較すれば、ベンチャーキャピタルからの資金調達も容易になり、上場のハードルも下がった。それにも関わらず世界的ベンチャー企業が出てこないのはなぜか。それは、やはりプレーヤー自身の実力の問題と言わざるを得ない。ワールドカップのサッカーを見て、日本が強くなったと言っても、世界レベルから見れば明らかに、パス、ドリブル、シュートのスピード、正確性が劣っている。これと同じことが日本のベンチャー経営者、従業員にも当てはまる。

何事も一足飛びにはいかないが、地道なレベルアップの努力が必要と痛感する。私自身が、そのレベルの低い経営者の1人だが、企業経営の場合は、本人の努力だけでは克服できないことも多く、一層問題を難しくしている。日本のベンチャー企業は相変わらず、米国のモノ真似が多いが、全ての創造は模倣から始まるということで、ベンチャー黎明期としては、いた仕方ないだろう。物真似でも何でもいいから、起業することが重要だ。最初から大きなことをしようとしても無理なので、できることから始めればよい。また、社会全体が、企業を長い目で見て育てる環境も必要と思う。世界的富豪のウォーレン・バフェットは、投資して何十年にも亘って株を持ち続けたという。

一般的に企業のケーススタディでは、成功した企業の成功した理由を学ぶが、これは、大体において学者が後からこじつけた理屈であって、実際のビジネスをやる場合あまり役に立たない。経営者が、どのようにして、人を集めたのか。日々従業員にどのように接し、どのようにしてモチベーションを高めたのか。会議の頻度は、どれくらいで、どのような議論がなされたのか。そういった具体的な内容が知りたいし、参考になる。


ベンチャー企業を育てる環境とはいったいどんなものか。私は、周りの全ての人が応援する環境が必要だとは思わない。実際、私のパワーの源は、保守勢力に対する反骨精神だし、周りが保守的であればあるほど、その反動は大きくなり、大きなパワーが生まれる。私は、徳島という地に10年前やって来たことで、大きなパワーを得た。応援してくれる人がいる一方、足を引っ張ろうとする人もいる。私は家族がいないので反対されることはないが、まず家族が反対するだろう。最低限、家族の反対を押し切ってやるぐらいの覚悟は必要だろう。その後、次から次へと襲い掛かってくる困難を考えれば、準備体操程度と受け止めた方がいい。人間とは不思議なもので、自分だけがそのような境遇だと思うと耐えられないが、みんな同じだと思うと楽になれる。今までにも記述してきた通り、クーデター、横領、裏切り等は、日常茶飯事。それも判で押したように起きる。

だから、経営者は、なぜ起きてしまったのかと悩むことは無意味であり、事務的に処理し、二度と同じ過ちを繰り返さないことが重要だ。したがって、ベンチャー支援という意味では、このような本音の情報交換がざっくばらんにできることが重要だ。成功した先輩には、成功談ではなく失敗談を語ってもらい、いざという時の心構えをしておく。

私は、ベンチャー支援ということで、実質的な支援よりも精神面での支援が重要だと思う。テクニックは、業界やポジショニングで全く違うので、他社の成功事例はあまり参考にならない。また、精神的支援は経営者だけでなく従業員にも必要だ。この会社は、共に心中する価値があるだろうか、今なら良い転職口が見つかるのではないかと従業員が日夜悩んでいることは想像できる。だとすれば、ベンチャー企業の従業員同志が、一同に会して悩みや愚痴を言い合ったりすることも有効と思う。昨日まで潰れかかっていたベンチャー企業の受付をやっていた女性が、上場後、ストックオプションで大金を手にしたなんて話はザラにある。そういう人の実体験を聞けば、従業員も勇気付けられる。

支援で重要なことはベンチャー企業の目線でモノを考えることだ。豪華客船と手漕ぎボートぐらいの開きがあるのだから、大企業の論理は通用しない。客船の操作、運営マニュアルが手漕ぎボートに役立つ筈がない。また、ビジネス内容の相談を受けた場合、はっきりと自分の考えを述べること。よくあるのは、見込みないと思っているのに、それを本人に伝えないこと。このような理由で見込みがないと思うと明確に答えれば、反論が返ってくる。そして多くの人が議論をすること。摩擦、軋轢のないところからは何も生まれない。多くの人の主義、主張のぶつかり会いから良いものが生まれる。また、どうすれば良くなるかという観点でアドバイスをすることも重要だ。よく言われる通り、誰もが賛成するビジネスより、みんなが反対するビジネスの方が良い。従来の発想の延長線上に未来はない。新大陸発見にリスクは付き物だ。


さて、先日、ベンチャーキャピタルの日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)主催のカンファレンスがあった、このカンファレンスは、半期毎に母校慶応義塾大学との共催で行われる。こんなことでもなければ三田を訪れることはないが、このイベントには、金融機関を中心に、大勢の参加者が集まり、半期毎の成績発表のようで緊張する。いつもは、自社のプレゼンにしか参加しないが、今回は、他社のプレゼンにも参加させていただいた。今迄は、東京へ出張すると時間が勿体無いとがむしゃらに営業を入れていたのを、方針を変えてみた。野球選手が、打撃フォームを変えるのと同じだ。堀場製作所の堀場会長の講演とパネルディスカッションも聞かせていただいた。このカンファレンスに参加して、特に印象に残ったのは、ディー・エヌ・エーの南場社長の上場以前の業績の話。最大単月1億2千万円の赤字を計上し、上場した時に、知り合いから、よく途中で諦めなかったねと言われたという。あのディー・エヌ・エーでさえ、そんな時代があったのかというある種の親近感を感じ、自分はまだまだ苦労が足りないと感じた。


当社は、先日の定時株主総会で6期目の決算を迎えることになった。UV-LED製品の売上は、前年度に比べて約5倍と大幅に伸びたが、海外向け出荷が、客先のトラブルで滞り、研究開発の受託等もなかったので、全体としては大幅減収減益となった。特許権の売却等でその穴を埋める努力をしたが、売却時期の関係で次期に繰り越すことになった。

決算は、経営者の成績通知のようなものであり、前回にも正直な気持ちをお伝えしたが、粉飾をしてでも、良い決算にしたいと思う。責任感があればあるほど、その衝動は強い。今回、ホリエモンに村上氏が続くことになったが、彼らは、ある意味で責任感が強かったと言える。私のように、またしても赤字にしてしまった経営者には彼らを批判する資格を持ち合わせないが、勝ち続けるギャンブルなんてあり得ない。負けは負けと認めて正々堂々と戦う勇気を持って欲しい。会社は商法において営利を目的とした社団と定めており、利益を追求し、利益の額で評価を受けるのは当然であり、これは拝金主義でも何でもない。今回の一連の事件を契機に、所得格差を悪とする風潮は、経済の活力を削ぐ議論であり、全く見当違いである。働く気力のないニートと徹夜で働くベンチャー経営者や従業員の所得格差がなくなることの方がよほど不公平だ。頑張った人が報われる公平な社会。皆がそうなりたいと努力する社会を実現しなければならない。

幸い、今年に入ってから順調に製品の売上が伸びている。また、今回初めて「地域新規産業創造技術開発費補助金」が採択になり、来期約5千万円更に翌年も継続ということで、国の支援を頂戴することになった。大事なお金なので、何としても研究開発に成功し、将来、ライセンス料、その他で恩返ししたい。今期、決算数字は悪かったが、内容は大幅に改善している。来期を楽しみにしていて欲しい。

今回の最後は、連合艦隊司令長官山本五十六の「男の修行」で締めくくりたい。


「苦しいこともあるだろう。云い度いこともあるだろう。不満なこともあるだろう。腹の立つこともあるだろう。泣きたいこともあるだろう。これらをじっとこらえてゆくのが男の修行である。」

ナイトライド・セミコンダクター株式会社本社

本社工場竣工から5年。植込みのツツジも年々少しずつ沢山の花を咲かせるようになりました

平成18年6月30日

第6回定時株主総会を終えて

<< PREV | INDEX | NEXT >>

TOP


All Rights Reserved, Copyright© NITRIDE SEMICONDUCTORS .Co.,Ltd.