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ナイトライド・ストーリー

Chapter 66

先日、ものづくり日本大賞の経済産業大臣賞を弊社の技術チームが受賞し、枝野幸男大臣から直々に表彰状を頂戴した。表彰はモノ作りに貢献した個人に対して行われ、弊社のような歴史の浅いベンチャー企業の現場を評価してもらい大変うれしい。一般的に、モノ作りというと、匠の技をイメージし、手先の器用な日本人のお得意だが、弊社は数ナノ(10億分の1m)という非常に薄い膜を成長する技術に特徴がある。UV-LEDの結晶は、MOCVD(有機金属気相成長)法によって成長するが、装置を独自に設計し、改良を重ねることで高効率化を実現した。人間が制御できるものは温度と圧力しかないが、1000℃以上の高温で、原料ガスを緻密に制御し、原子の電子と正孔(ホール)を制御する半導体技術を保有する。これぞ本当の神業と言える。今や、青色LEDは装置を買ってきてボタンを押せば誰でも作れるが、UV-LEDは未だに製造できる会社が限られる。

経済産業大臣賞

さて、何事においても選択肢はいくつもあるので、何が正しいという答えはないが、私の経験では、常識に囚われると事実を見誤る。

私は半世紀も生きているが、つい先日迄、イチゴは果物だと思っていた。園芸学上、苗を植えて1年以内に収穫するものは野菜に分類されるそうだ。(農林水産省は統計上いちごを果物に分類)大好物のいちごのことでさえ知らないのに、わかったような口を利くのは僭越だが、我々の常識がいかに当てにならないかを表している。


60年代、私が幼少の頃の為替は1ドル360円、日本の高度経済成長期、道路も未舗装、TVや車はお金持ちの道楽だった。米国では、既にカラーTV、冷蔵庫、エアコン、洗濯機が溢れ、日本製は安モノの代名詞だった。うちには子供が冷凍室に入れそうな米国製の大型冷蔵庫や珍しかったエアコン、絨毯を洗剤で洗える北欧製の掃除機などがあって、子供ながらに誇らしかった。驚くべきことに、そのエアコンは未だに現役で働いている。

その頃から、日本は資源がない国だから、一生懸命働いて外貨を獲得しなければならないと教えられた。日本がGNP世界第2位になったのは68年と早く、70年代、ブレトンウッズ体制が崩壊してドルが暴落、米国の自動車が品質問題で売れず、日米自動車摩擦が発生した。日本の自動車の米国生産が始まり、ジャンボジェット等米国製品を購入させられた。80年代、私が大学生の頃、為替は1ドル200円以上でブランド品は高くて買えなかったが、85年のプラザ合意による急激な円高によって1ドル150円になり、生活実感としては豊かになった感じはしなかったが、欧米のブランド品が安く買えるようになった。今から思えれば、この頃が日本の絶頂期だったような気がする。ソニーがロックフェラーセンターを買収し、日本人が世界中の不動産を買うのではないかと批判されたが、日米半導体摩擦が起き、日ノ丸半導体はダンピングと認定され壊滅的打撃を受けた。また、働き過ぎを是正するように圧力を受け、リゾート法施行によって各地にゴルフ場やテーマパークが沢山でき、教育に関しても詰め込みが改められた。そして、バブルが崩壊し、90年代以降、失われた20年が経過し、為替は1ドル80円になり、GNPは中国に抜かれた。エコと騒がれた太陽電池もLEDも今やコモディティ化し、中国の安い製品にシェアを奪われた。


このように見て来ると、日本の産業は常に円高に適応して来たことがわかる。仮に10年後の為替が1ドル50円になっても驚かない。産業構造は、為替レートと各国の利害、そのときの置かれた状況と絡んで変遷して来た。今、米国製の冷蔵庫やエアコンを買う日本人はいないが、米国は、自動車、半導体の製造は残し、家電の国外流出を許した。アップル社は、iPhoneを中国で製造しているが、核となる通信用半導体は米国製を採用する。米国の底力を見せつけられるが、米国企業の強さの秘密は企業の自助努力は兎も角、行政、大学、研究機関の支援によるところも大きい。実際、弊社のようなベンチャー企業にさえ誘致活動を仕掛ける。


弊社が経済産業大臣賞を受賞した理由は、将来の日本の製造業に示唆を与えることが期待されたのだと推測する。今後、更に円高になり、また、消費税が高くなれば、国内で製造業が成り立たないという常識は間違っている。

弊社は、コアとなる結晶成長は自社工場で手掛け、それ以降の工程は、国内外の企業とのアライアンスで製造コストを抑えている。従って、中国等新興国の技術レベルが上がることは都合がよく、また、円高は海外の取引先を活用するのに都合がいい。

日本は、世界の常識からすると、想像を超える円高をものともせず成長して来た常識はずれな国だ。これからも時代に合わせて企業も個人も柔軟に変化して行かなければならない。

東日本大震災で被災したことは不幸だが、被災された多くの方々のことを思えば、円高や消費税ぐらい何てことはない。むしろ、この逆境が日本を強くする。震災復興のためにも、厳しい環境で成り立つビジネスモデルを構築し、世界の強豪を打ち負かそう。

平成24年04月05日

経済産業大臣賞を受賞して思うこと

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