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ナイトライド・ストーリー

Chapter 32

さて、例年にも増して暑い夏は、北京五輪の日本野球の惨敗に続いて福田首相の突然の辞任で一段と残暑厳しいものになった。選手より目立つ星野監督と他人事のような福田首相の対比が、今の日本を象徴している。

スポーツに限らず、極限状態でものを言うのは、日頃の猛練習と揺るぎのない信念、絶対に勝つという強い心だということは疑いがないが、気負うという言葉が表すように、過度の思い入れは筋肉と脳を委縮させる。試合をよく見ていると、明らかにある瞬間からサイコロが一方に有利に振れるようになる。これを潮目と表現するが、潮目を自分に引き寄せるにはどうすればよいのか。調子の悪い時は、何をやっても悪い方に行き、逆になるとすべてが良い方向に向かう。この潮目の変わる瞬間には、一体なにが起きているのだろう。これは必ずしも努力だけで解決できる問題ではないように感じる。口で言うのはた易いが、流れを変えようとして、更に悪い結果を招くこともあるので、話はそう簡単ではない。野球で流れを変えるのは決まってファーボールか味方のエラーだ。正に「ついてない」1球で流れが変わる。張りつめていた緊張の糸が切れる瞬間である。

宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘では、武蔵が鞘を投げ捨てた小次郎に、「鞘を捨てるは勝負を捨てたのも同じ」と言って、小次郎の精神的動揺を誘い、船の櫓を削った木刀で頭を打ち砕いた。真実かどうかは別として、よくできた話である。武蔵ほどの剣の達人であれば、こんな姑息と思える手を使わずとも、得意の二刀流で十分打倒せた筈だが、絶対に勝つという目的のために周到な準備をしたのだろう。ここに勝負の極意が垣間見える。勝つということは、剣のうまさだけではない。地理的条件、精神的駆け引き等、ありとあらゆるものを利用しての勝負なのだ。武蔵が剣の道を極めた書物が「五輪書」というのもうますぎる話だ。

次に、行き詰まりを見せる政治の世界における問題点は何か。こちらも潮目が読めていないことではないか。潮の流れという自然界の大きな営みを理解し、それを自分に有利に利用する方策を練る必要がある。源氏が壇ノ浦で平家を滅ぼしたのを、驕る平家当然の報いと片付けるのは歴史学者の仕事であって、実際は新たな時代の流れを作りだした源氏の周到な準備による。源氏が新しい流れを作るきっかけになったのは、奇襲を得意とする義経の戦上手である。「一の谷の逆落とし」が有名だが、敵が思いもよらぬ方角から攻めて敵の不意を突いた。また、平家が差し出す「扇の的」を弓の名人那須与一が射落とす話のように、何気ない様子を誇張して味方の士気を高める演出にも抜かりない。壇の浦の決戦では、潮の流れが勝利を決めるが、義経は、陸戦、海戦を問わず、地理的要因、戦力、武器、心理的要因に至るまで綿密に戦術を練った。それに比べて、ねじれ国会の状況で、どのように敵を切り崩すか策も練らずに国会を開いても時間の無駄だろう。

以上のように、野球、政治のどちらにも潮目を見る観察力とそれに対する対策が重要ということだが、この話はビジネスにも当てはまる。良い製品を作ることは、売れるための必要条件だが、売れる製品には、更に工夫が必要である。客がその製品を買わざるを得ない、若しくは買いたいと思わせる工夫である。そのためには武蔵や義経のようにどんな小さなことでも自分に有利なものは利用しようという貪欲な姿勢が必要だ。この観察力とそれに対する対策こそが流れを引き寄せる最大の武器と言っていい。誰でも知っている兵法の極意「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」だ。

創業からの8年間で、弊社も数多くの困難に直面したが、今から振り返ると、その度毎に会社は強くなった。今でこそ我々は上場していないが、ライブドア、グッドウイル等々、一世を風靡したベンチャー企業が姿を消す中、業界における世界的な知名度と将来に向かって大きな展望が開ける状況にあることは、潮目が来ている証拠だろう。口さがない人々から「紫外線LEDは見込みない」「社長が馬鹿だから駄目」と中傷された。しかし、そのような状況においても、自分たちに流れを呼び込む努力を怠らなかった。それは依然として大きくはないが、確実に流れが来ていると感じる。

産業界において、ある時突然レコードがCDになり、ブラウン管が液晶になった訳ではない。数十年にもわたる技術革新の結果、ある時突然堰を切ったように急激な変化が起きる。我々は、地道に紫外線LEDの性能を高め、各アプリケーションへの応用の仕方を提案し続けた。そして、紙幣識別、樹脂硬化、空気清浄からバイオ、医療といった様々な分野へ用途を拡大している。この流れを呼び込む努力が、いつか大きく花咲く日がくることを楽しみにしている。

平成20年9月4日

北京五輪と首相辞任に感じること

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