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ナイトライド・ストーリー

Chapter 23

創業7周年を迎え、創業記念日にお寺で一泊し、早朝から般若心経を唱え、11番札所藤井寺から12番札所焼山寺までお遍路した。出発前、般若心経を唱えるこの間は、山を3つ越える「遍路転がし」と言われる難所で、通常は6時間ぐらいかけて歩くとのことだが、我々は、4時間で歩いた。

私は、今でも父と山登りをするので、楽な道程だったが、日頃歩き慣れていない従業員には、結構よい運動になったようだ。参加した全員が誰も脱落することなく歩き切ったことは今後の励みになったと思う。

よく人生を山登りに譬えるが、苦労すればする程幸せになれるという意味で、まさに人生の縮図と言える。

山頂の一本杉と空海像の前でさて、この7年間を山登りに譬えるなら、豪雪吹きすさぶ中、地図もない、険しい山に挑んだようなものだった。その道程は、本当に困難を極めた。眼前には幾重にも氷壁が立塞がり、途中何度も始めたことを後悔したが、始めてしまったものを途中でやめる訳にはいかず、ひたすら山頂を目指して登ってきた。

まだ、その山の1合目ぐらいだと思うが、道程で学んだ私の経営哲学を、忘れないうちにここでまとめておきたい。

経験のない人には独断と偏見に満ちているように見えるが、これらに違和感を覚える人は、起業を思い留まるべきだ。なぜなら、ここに記述した内容は、多くの成功した経営者の発言、著名経済学者の分析結果とも共通するからである。

もの事の表面だけを分析した机上経営学とは大分理解が異なる。たとえば、「オリンピックで優勝した選手には、専属トレーナーがついていたが、入賞も果たせなかった選手にも専属トレーナーはついていた。」だから、優勝するために必要なのは、専属トレーナーの存在ではなく、それ以外の事に焦点を当てるべきなのだ。そのような観点から、以下の記述を参考にして欲しい。

■事業の選択

適度に困難な事業を選定する
何の事業を手掛けるかは、最も重要な経営判断だが、結論から言えば、すぐ実現できるものより、実現が難しそうなテーマを選定した方がよい。簡単なテーマだと、すぐに競合が出てきて、厳しい価格競争に追い込まれる。
実際、我々と同時期に韓国、台湾で起業したLEDベンチャーは、青色LEDを選んだ結果、大半が買収、若しくは倒産した。彼らは、自ら技術開発せず、技術を真似しただけという要因もあったが、始めはよかったが、後が続かなかった。
ある程度、難しいテーマであれば、他社が、旨味に気付いてキャッチアップするにも時間が掛かる。これは、資金調達のし易さにも関係する。あまり、簡単なテーマは、ウイークポイントを指摘し易いので、投資家の投資判断を得難い。ただ、難しすぎると実現できない可能性もある。

■資金調達

資金は、直接金融で集められる時に、集められるだけ集める
必要な時に必要な資金だけ調達することができるのが理想だが、そんな都合の良い調達は不可能。ベンチャーキャピタル(以下VC)の投資傾向には、半導体、IT、バイオ等、その時期のブームがあり、1社が出すと芋づる式に他社も出す傾向が強い。従って、1年後にはブームが去っていることもあり得る。
また、米国のVCは、成長段階に応じて2回目、3回目と繰り返し投資をするが、日本のVCは最初の一回だけである。従って、初回の調達できる時に、できるだけ多く集めておかないと、後で資金が続かなくなる。また、金融機関からの融資は、受けられないと思った方がよく、運良く受けてしまうと返済に苦労することになる。
一流のVCは、窮地に責めるどころか、励ましてくれる
人間性は、いざというときの行動に現れるのもだがVCも同じ。一流のVCは、豊富な経験によって、たとえば、「売上が計画を下回っている理由はなぜか」というような、指摘しても仕方ないことは指摘しない。
なぜなら、ベンチャー企業から出てくる事業計画など、最初からその通りに行かないことを心得ている。内部抗争が起きて、社内が混乱しているような状況においても、「なぜ内部抗争が起きるのか?経営者の統率力が足りないから、こんなことが起きるのだ」と言った非難をしない。
冷静にどちらの言い分が正しいかを判断し、経営者が正しい場合は、氾濫分子を排除するようアドバイスする。そして、落ち込んでいる経営者に、「皆同じようなことを経験しているので、気にするな」と、励ましてくれる。ただ、明かに経営者に非がある場合は、厳しく追求される。
VCの追求は、上場の予行演習
今まで理解のあったVCが、担当者の交代で、ただの嫌がらせとしか思えない指摘をしてくるようになることがある。VCにもよるが、一般的に3年ぐらいの周期で担当者が変わる。担当が替わる度に事業説明をすることになるが、逆に、理解のない担当者も3年辛抱すれば、理解のある担当者に代わる可能性がある。いずれの場合も、担当者の指摘に耳を傾け、上場時の予行演習と心得て、たとえ理不尽な指摘でもうまくかわすテクニックを磨くようにしたい。
経営者が絶対にマジョリティを取れ
投資家の中には、理解のあるところもあれば、そうでないところもある。有益な指摘をしてくれる場合もあるが、そうでない場合もある。必ずしも理解が得られない場合、そこまで言うなら、経営をお任せすると言いたくなることもあるが、彼らは、机上の理論でものを言っているだけなので、実際に任せても経営はできない。結局、最後に責任を取るのは自分であり、そのためにも、できれば持ち株比率、51%以上を確保すべきである。でなければ、思うように経営ができず、船頭多くして、船山に登ることになる。

■役員人事

スタートアップ時の経営幹部は、社長1人で十分
スタートしたばかりのベンチャー企業は、組織も小さく、指揮命令系統も、社長直轄で十分である。当然、総務、経理、営業、技術と全般を面倒見なければならないので、大変だが、経営理念を従業員に浸透するために、社長が人事評価もし、経営理念を自分の口から伝えた方が効率がよい。但し、社外取締役に、弁護士、公認会計士、ベテラン創業経営者に加わってもらい、アドバイスを受けられる体制は必要。
役員は、時間をかけて育てる
役員を外部からヘッドハンティングしても機能しない。必要性が生じた時、社員の中から、意欲とリーダーシップを発揮できる人材を発掘し、時間をかけて育てなければならない。投資受け入れ後、VCからの指摘で幹部組織の整備を要求されるが、大企業から立派な肩書きの人を引っ張ってきても、組織が頭でっかちになって、人件費負担が大きくなるだけで、業績に貢献することはない。投資家を一時的に安心させるだけで、内部抗争を引き起こすなど、弊害ばかりが目立つ。
投資受け入れの条件ということで役員を迎えてはいけない
投資を受け入れることの引き換えに役員を迎え入れた場合、その役員が会社の発展のために働く意欲はない。そればかりか、働く意欲のある役員、従業員にも無気力を蔓延させる。
VCの社外役員は一長一短
VCからの投資条件に社外取締役の派遣を盛り込んだ契約は多いが、良い場合も悪い場合もある。投資家が、毎回取締役会に参加することで、事業に対する理解も深まり、問題を一緒に解決するという意識が強くなる一方で、投資家の意見を尊重せざるを得ず、取締役会対策に追われることになる。こうなると、本来やるべき実務に専念できなくなる。
大企業の立派な肩書きの人を招いてもベンチャー企業では機能しない
大企業の立派な肩書きを持った人がいると、安心感があるが、彼らには、営業に出向いたり、クリーンルームに入って装置を操作する意欲はなく、「この会社は、有能な社員がいないので、駄目だ」と言う。ベンチャーに必要なのは、最前線で戦う勇敢な兵士若しくは兵士と共に突撃する軍曹であり、司令部で踏ん反り返っている幹部ではない。

■従業員人事

学歴や経歴ではなく、手間を惜しまない人を選ぶ
技術系、事務系のどちらにも共通するが、高学歴の学生は、本を調べたり、勉強はするが、自分の手で工夫してやってみるといった手間を惜しむ傾向が強い。研究に限らず、経理、営業も、単純な作業の繰り返し中にヒントがある。私が、毎朝の清掃をうるさく言うのも、そこにある真理に気付いてほしいからである。複雑な現象も単純な現象が絡み合っているに過ぎない。
また、知識に頼ると、本に書いてないことを自分で創意工夫して更に高度なものにすることができない。一方、知識と経験はないが、手間を惜しまない人は、テーマを与えると文句も言わず、こつこつと作業を続ける。限界を知らないので、学者が理論的に限界といったレベルを知らぬうち超えて行く。昔から言う通り「運、鈍、根」。
能力のある社員は謙虚
能力のある社員は、文句も言わず黙々と仕事をし、当然のように結果を出すので、待遇がよくなるが、能力のない社員は、そもそも自分が無能である自覚がなく、給料が安い、装置が悪いと、自分ができないことを他人のせいにし、低い人事評価をつけると、上司を非難する。
博士号を持った人と外国人は、企業には不向き
博士号を持った人は、勉強することは得意だが、新しい何かを作ることはない。また、外国人は、企業の発展というよりも、自らの待遇に重点があるので、会社と一緒に成長して行くという発想はない。
掃除、下働きの仕事振りは、実務能力に比例する
弊社は、全員が自主的に就業時間の30分前に来て掃除をするが、掃除の仕方を見ていると、仕事振りがわかる。仕事に対する熱意、仕事の段取り、丁寧さなどが、ひと目で把握できる。言われたことしかやらない者、ただ、雑巾で汚れをこすり付けている者など、一時が万事である。掃除を手抜きする者で、本来の業務が、有能だった例は1人もない。

■営業

従来にない画期的技術は、最初は売れない
製品は、スペック、信頼性、アフターサービスなどの全ての条件が揃わなければ、売れない。新製品販売から2~3年、売上が増えないことを焦って、東京に営業所を開設したり、業界に詳しい営業を採用したが、期待外れの結果になった。売れない理由は、営業力の問題ではなく、製品の浸透、評価にしかるべき時間が必要ということである。植物を育てるのに、早く伸ばそうとして茎を引っ張っても伸びないのと同じで、時間を掛けてじっくり育てることが重要。ただ、結果は兎に角、売ろうとする努力は必要。
他社に真似できない画期的な製品は、営業しなくても売れる
製品の広告を出したことはないが、海外も含めてインターネットを通じて注文が来る。会社が徳島にあることで、不利に感じたことは全くない。他社に真似できない画期的な製品は、営業しなくても売れる。
ハイテク製品は、海外の方が評価が早い
ハイテク製品の場合、国内ではさっぱり売れなかったが、海外で売れるようになり、その後、国内でも、売れるようになったという話を耳にするが、全くその通り。ハイテク製品が、国内で浸透するには時間が掛かる。理由は、日本人の潔癖性による。日本企業は、万が一訳のわからないベンチャー企業の製品を採用して、不良でも出したら大変という意識が強い。海外は、そのような技術を積極的に活用して従来にない製品を作ろうという意識が強い。
第一印象の悪いお客様が大事
初めて営業に行った時、ぶっきら棒な対応をする取引先の方が、製品を買ってくださる確率が高い。愛想よく対応してくれる場合、サンプルさえ買って貰えないことが多い。
小さな会社を大事に
大企業の担当者で、「サンプルは無償」ということを、当たり前のように要求してくる場合があるが、無償で提供して取引に至ったことはない。本気で事業化を検討している場合、予算は付いている筈であり、無償でと言って来る時点で、担当者の興味本位の場合がほとんど。たった数万円の費用をケチる会社が、何百万、何千万もの取引に発展することはない。一方、営業に行って、こんな小さなところを相手にしても仕方ないなと、思えるようなところが、大企業の新製品企画を担当していたりする。

■役員報酬・給与

報酬、給与の高低と能力、やる気は比例しない
報酬が多い方が、やる気を出して一生懸命働くように思うが、そうではない。私よりも多く報酬を払っていた役員、エンジニアは、そのことを当然と思っており、私の期待に応えられるように頑張ろうとか、私を立てるといったことさえしなかった。それどころか、常日頃、陰で私を非難し、都合が悪くなると、私のせいにして去っていった。理由は、こんな小さな会社に来てやったという驕りがあるからではないかと思う。
人事評価は、話し合って納得してもらう
人は、自分を過大評価している。私から見て、これは酷いと思うレベルの人でも、低い評価をつけると怒るものである。何がどう悪いかを直接話し合って、納得させることをしないと、「上司の部下を観る目がない」と言われることになる。誰でも、低い評価などつけたくない。その人に成長して欲しいと思うから、敢えて低い評価をつける。
評価尺度を明確にする
事前に、どういう基準で評価するか、明確にしておかなければならない。そうしないと、努力のしようがないし、評価できない。
些細なことでも指摘する
服装、言葉使いなど、こんなことまで言わせるのかと思うことがよくあるが、気付いたら言う。本人は、気付いていないだけなので、言えば素直に直す。親、学校が、躾を放棄していることが原因だが、誰かが言わないとその人は、一生そのままであり、本人の将来を考えれば面倒でも言うべき。

以上、お気付きの通り、人間としての根本的なところをしっかりしろという内容であって、何も難しいことはない。これらは様々な成功した経営者の皆様が既に本に書いておられる通りである。未熟な私は、本を読んだ程度では理解できず、愚かにも自ら経験してやっと理解できた。賢明な皆さんは、素直に実践していただきたい。


今回、お遍路でお世話になった「ぽっくり寺」には、大和栄丈さんという立派なお坊さんがいらっしゃって、興味深い話をされた。我々の手掛ける紫色の光は、人を癒す光で、人類を幸せにする。日本が世界を導く光になるかもしれないという意味のことをおっしゃった。そんなことも含めて、このお遍路によって、従業員の団結と、我々が生きていくうえで重要な示唆を得ることができた。


「丸7年が経過して、八年目以降、末広がりになって、益々発展するでしょう」

ぽっくり寺 大和栄丈

12番札所焼山寺に到着

12番札所焼山寺に到着

平成19年4月15日

創立7周年記念お遍路を終えて

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